NOPE/ノープを見た(若干ネタバレあり)

 『NOPE/ノープ』を見た。

 


 あらすじを簡単に説明すると、

黒人の兄妹、OJとエメラルドが経営する牧場の周辺で、停電が起こったり、奇妙な音が聞こえたり、馬が怯えたりといった怪奇現象が次々と起こっていく。兄妹の父も、空から突然降ってきたコインによって命を奪われた。その異常な現象は牧場の上空に存在する未確認飛行物体によって引き起こされているらしい。兄妹は上空に潜む何かを撮影して一儲けすることを思いつくが……

 というような話である。

 

 非常に印象に残るシーンが多い映画だったな、というのが最初の感想。
 暴走するチンパンジーの横に垂直に立つ靴や、大量の血液が雨となって降り注ぐ家、それから広大な荒野を力強く駆ける馬などなど。
 それぞれ意味深だったり、即物的で俗悪だったり、あるいは問答無用で心躍ってしまうような、まったく異なる方向に強烈な印象を残すシーンなのだが、それらが喧嘩することなく調和しているのが興味深かった。
 
 ジョーダン・ピール監督作品らしく、映画(というかショービジネスや社会全般)が根本的な部分で持っている搾取構造や、マイノリティを軽視する姿勢、あるいは搾取があることがわかっていながらそれを「見ないふり」してやり過ごすことなどに対して、鋭い批評も向けられている。
 アジア系の元子役俳優・ジュープのエピソードの意味や本筋との関係など、考察しがいのある要素に事欠かない。だから、ただインパクトのある映像に圧倒されるばかりではなく、見ている最中に様々な思考を巡らせることになる、そんな映画だった。

 

 社会に対する批評的要素や、観客に思考を促す要素がそこかしこにちりばめられているのと同時に、力強くパワフル、豪快で景気のいい要素が多数存在するのも、『NOPE/ノープ』の魅力であった。
 特に終盤、空を飛ぶ謎の存在の習性をある程度理解した主人公たちが、恐れおののきながらも、知恵と勇気で食らいついていく展開にはテンションが上がった。下を向いて小さな声で「見てはいけない」と言っていたエメラルドが、天を仰ぎ、大声で叫ぶ様子など最高だった。

 

 全体の感想としては、非常に面白い映画体験でした。
 心残りがあるとすれば、IMAXで見たほうがいい映画という評判を聞いていたので、本当はIMAXで見たかったけど、田舎民なので小さめのスクリーンで見ちゃったという点。まあこればかりはしょうがないかな。