『老人と海』を読んだ

 

 



 ヘミングウェイの『老人と海』を再読した。

 再読と言っても、前に読んだのはおそらく10年ほど前で、大まかなあらすじ以外はほとんど覚えていないような状態であった。

 なぜかサンチアゴ(サンチャゴ)という名前を、主人公である老人ではなく、老人に懐いている少年の名前と勘違いして記憶していたくらいである。

 今回読んだのは2020年に新潮社から出版された高見浩訳のものである。昔読んだのも確か新潮文庫で、福田恆存訳のものだったのではないかと思う。

 

 有名すぎる作品だが、一応簡単に説明しておくと、八十四日もの不漁に見舞われた老いた漁師が、一人で海に乗り出し、巨大なカジキマグロと遭遇し、死闘の末についに仕留めるが、しかし、港に帰る途中で老人はサメの襲撃に遭う、というような話である。


 さて、それで再読してみての感想なのだが、ぼんやりと私の脳にあった記憶、あるいはイメージとは結構異なる話であった。

 特に気になったのが、主人公である老人と少年の関係性である。

 大自然と戦う気高い孤高のヒーローというイメージのあった老人サンチアゴだが、実際にはピンチがあるごとに、自分を慕ってくれる少年マノーリンのことを思い浮かべて、彼がいてくれたら、というようなことを考えるような人物である。

 正直、再読するまで、老人は「頼れるのは自分の腕のみ」みたいなノリの人物だと勘違いしていたが、実際にはもうちょっと等身大の人間というか、現在は一人でいるので一人でやってるが、それはそれとして普通に寂しさは感じるという感じの人物だったので、ちょっと驚きさえした。

 また、少年の方も、滅茶苦茶良い子で、かなり老人を慕っている。これだけ懐いてくれるんなら、そりゃあ老人も少年のことを想っちゃうよね、というくらい懐いている。ラスト近辺の老人に対する少年の振る舞いとか、滅茶苦茶可愛いなあと思う。

 そういうわけで、私はこの『老人と海』に対して、慕ってくれる少年が側にいない状態で頑張る老人と、その老人のことを想いながらも、離れた場所で待つしかない少年の友情を描いた物語というような印象さえ受けた。


 昔読んだ時は、正直そんなに面白いと思わなかったような気がするのだが、今回はかなり楽しめたように思う。