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『騎士団長殺し』発売記念 村上春樹短編作品における飲酒量を調査して村上春樹の肝臓を心配するブログ その1

 

最初に

 こんばんは、死角からの一撃です。長らくブログを放置していました。お久しぶりです。

 

 村上春樹の新作長編『騎士団長殺し』が発売されましたね。

 僕は高校生のころに『羊男のクリスマス』を読んで以来、村上春樹のファンをしていますので、これから読む新作も、楽しみにしています。

 そんな僕が、長い間、非常に心配している問題があります。

 すなわち、村上春樹作品の主人公、酒飲みすぎじゃね?」問題です。

 ご存知の方も多いと思いますが、村上春樹作品の主人公、特に初期作品の主人公は、ビールを中心にやたらと酒を飲みます。昼間から当然のような顔をして、何本も缶ビールを飲んだりします。

 たとえばデビュー作である『風の歌を聴け』には、以下のような文章があります。

一夏中かけて、僕と鼠はまるで何かに取り憑かれたように25メートル・プール一杯分ばかりのビールを飲み干し、「ジェイズ・バー」の床いっぱいに5センチの厚さにピーナツの殻をまきちらした。

 25メートル・プールの容量を25m×12m×1.2m=360㎥=36万リットル、一夏を7月と8月の合計60日とすると、『風の歌を聴け』の「僕」と鼠は1日でそれぞれ3000リットルものビールを飲んだ計算になります。500ml缶に換算すると、1日で6000本。350ml缶なら8571本分となります。

 

風の歌を聴け (講談社文庫)

風の歌を聴け (講談社文庫)

 

 

 一夏で25メートル・プール一杯分のビールというのはさすがに比喩でしょうが(たぶん)、これ以外にも『風の歌を聴け』には大量の飲酒描写がありますし、このほかの小説でも、村上春樹作品の主人公たちは、読者が「こんなに酒飲んで肝臓大丈夫かな?」と心配するくらいに、とにかく酒を飲みまくります。

 作者と作品の主人公が別人だということはよくわかっているつもりですが、それを踏まえた上でも、「村上春樹の飲酒感覚どうなってるんだろう?」「村上春樹の肝臓大丈夫かな?」と心配になってしまうくらいに、村上春樹作品には飲酒描写が多いわけです。

 

 さて、ここからが本題です。

 村上春樹作品の主人公の飲酒量が多いのはよく知られた事実ですが、それでは具体的にはどれくらい飲酒しているのでしょうか?

 気になって簡単に調べてみましたが、村上春樹作品における具体的な飲酒量について書かれた文献は、残念ながら見つかりませんでした。

 他人が調査していない以上、自分で調査するしかありません。

 というわけで、今回の記事では、村上春樹の小説に書かれた飲酒描写を調査して、その(おそらく膨大な)飲酒量を正確に把握したいと思います。そして、正確な飲酒量を把握したうえで、改めて主人公たちの肝臓を心配するのが、この記事の目的です。

 なお、調査対象は短編小説に絞り、長編は対象外とします。これは単純に、僕が使える時間と手間の問題のためです。いつか、長編作品における飲酒量についても調査したいと思います。

 分量が多いので、何回かに分けて更新していこうと思います。今回は第1回目、『村上春樹全作品 1979-1989 3 短編集Ⅰ』に収録された(単行本で言えば『中国行きのスローボート』、『蛍・納屋を焼く・その他の短編』に収録された)短編の飲酒量を調査していきたいと思います。

 

村上春樹全作品 1979?1989 全8巻セット

村上春樹全作品 1979?1989 全8巻セット

 

 

 

 

ルール

 今回の調査のルールは以下の通りとします。

  1. 村上春樹の短編小説において、どの程度の分量の酒が飲まれているかを調査する。
  2. 調査対象は『村上春樹全作品 1979~1989』および『村上春樹全作品 1990~2000』(ともに講談社)、『東京奇譚集』文庫版(新潮社)、『女のいない男たち』単行本版(文藝春秋社)に収録された短編小説全部とする。
  3. 単に「ビールを飲んだ」「ウイスキーを飲んだ」と書かれているだけで、飲んだ分量が書かれていない場合は、文脈から推測される最小限の分量を飲酒量としてカウントする。(単に「ワインを飲んだ」ならワイングラス1杯、一度でもおかわりする描写があれば2杯とカウントする等)
  4. 複数人で飲酒する描写があり、飲酒量の内訳が不明な場合は、飲酒していた人間が、それぞれ同量の量の酒を消費したこととみなす。たとえば、「二人でビールを四本あけた」と書かれていた場合は、それぞれが2本ずつ同量の瓶ビールを消費したこととみなす。
  5. バーやレストランで酒類を注文した描写がある場合、「酒を飲んだ」ことが直接書かれていなくても、飲酒したこととみなす。
  6. 「ワイン一杯」「ウイスキー一杯」などと書かれていて、容器に関する記述がない場合は、特に理由がない限り、グラス1杯分の酒とみなす。
  7. 「ワイン一本」「ウイスキー一本」などと書かれていて、容器に関する記述がない場合は、特に理由がない限り、瓶またはボトル1本分の酒とみなす。
  8. ウイスキーは特に明記がない限りストレートで飲んでいることとする。
  9. そのほか、文脈から飲酒量が推測できる場合は、調査者(死角からの一撃)が推測した分量をカウントする。
  10. 「いつもビールを飲んでいる」など、習慣を記しているだけで、劇中で飲酒していない場合は飲酒量にはカウントしない。ただし、「僕は三日間、毎日一杯ずつビールを飲んだ」と書かれていた場合のように、期間が限定されたうえで、作中で実際にその期間が経過した場合は、飲酒量にカウントする。
  11. 各種容器に入る酒の分量、および酒の度数は以下の表のとおりとする。この表は新しい酒が出てくるたびに随時更新する。

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  12. 最後に飲酒量をまとめ、登場人物たちの肝臓を心配する。

 

 以上のルールに基づいて、早速調査を開始したいと思います。

 

村上春樹全作品 1979-1989 3 短編集Ⅰ』

 

「中国行きのスローボート」

飲酒内容

僕:ビール少なくともグラス2杯*1

  • 最低飲酒量 ビール 700ml

彼女(二人めの中国人):ビール少なくともグラス2杯

  •  最低飲酒量 ビール700ml

 

解説

 「僕」が出会った3人の中国人について回想する話。

 飲酒の描写があるのは、二人めの中国人である「彼女」についての回想で、ビールを飲む「僕」と「彼女」はまだ19歳である。

 

「貧乏な叔母さんの話」

飲酒内容

僕:ウイスキー少なくともグラス1杯*2

友人たち(人数不明):ウイスキー少なくともグラス1杯

 

解説

 身内に貧乏な叔母さんがいない「僕」が貧乏な叔母さんについてあれこれ考えたり、なぜか背中に貧乏な叔母さんが貼りついたりする話。友人たちとウイスキーで酒盛りをするシーンがあるが、具体的な飲酒量は不明。一時間以上飲みつづけたらしいので、結構な量を飲んでいる可能性もある。

 

「ニューヨーク炭鉱の悲劇」

飲酒内容

僕:ビール瓶6本*3ウイスキー少なくともグラス1杯*4シャンパン瓶半分*5、酒(パーティーにて、分量と種類は不明)

彼(僕の友人):ビール缶2本*6・瓶6本、ウイスキー少なくともグラス1杯*7シャンパン瓶半分

自殺した友人:自殺前にウイスキー(ヘイグ)のオンザロックを「何杯も何杯も」飲んだと「僕」は推測している。

 

彼女:水割り少なくともグラス1杯*8

 

解説

 「僕」が友人から葬式用の背広や靴を借りるついでに、友人と一緒に酒を飲みまくったり、パーティに出かけたりする話。飲酒量がおかしい小説その1。「僕」と「彼」は一日のうちに、ビール半ダース、一定量以上のウイスキーシャンパン1瓶を二人であけている。

 

「カンガルー通信」

飲酒内容

なし

 

解説

 デパートの商品係をしている「僕」が、デパートに苦情を言ってきた女性に、カンガルーの話やらセクハラメッセージやらを吹き込んだカセットテープを送る話。カセットテープに吹き込まれた音声だけで話が進むため、飲酒描写はない。

 

「午後の最後の芝生」

飲酒内容

僕:ビール缶少なくとも1本*9・グラス少なくとも1杯*10、ウォッカ・トニックグラス少なくとも1杯*11

  • 最低飲酒量 ビール700ml ウォッカ・トニック120ml

中年の女:ウイスキーらしきものグラス1杯、ビール少なくともグラス1杯、ウォッカ・トニック少なくともグラス2杯(僕に出したものよりずっと濃い)

  •  最低飲酒量 ウイスキーらしきもの60ml ウォッカ・トニック240ml

 

解説

 主人公である「僕」が19歳の時に、恋人に振られたり、芝刈りのアルバイトをしたり、顧客である中年の女と一緒に酒を飲んだりする話。割と当然のように飲酒運転もする。

 作中で確認できる最低限の飲酒量は上記の通りだが、おそらく実際にはもっと大量の酒が消費されている。

 なお集計上、ウイスキーらしきものはウイスキーとみなすこととする。

 

「土の中の彼女の小さな犬」

飲酒内容

僕:酒(どこかの店にて。種類・分量不明)、瓶ビール1本半*12、スコッチ・ウイスキーのストレートグラス1杯

  • 最低飲酒量 ビール750ml ウイスキー60ml 酒(分量不明)

若い女:瓶ビール1本*13

  • 最低飲酒量 ビール500ml

ガールフレンド:酒(どこかの店にて。種類・分量不明)、瓶ビール半分*14

  • 最低飲酒量 ビール250ml 酒(分量不明)

二十代半ばの男:酒(どこかの店にて。種類・分量不明。少なくとも酔っぱらう程度)

二十代半ばの女:酒(どこかの店にて。種類・分量不明。少なくとも酔っぱらう程度)、カンパリー・ソーダ(飲めずにこぼしている)

身なりのいい男たち:ワイン(分量不明)

 

解説

 ガールフレンドと喧嘩中の男が、リゾートホテルで別の女性を口説く話。ホテルのレストランが主な舞台だが、飲酒量は比較的少なめである。

  なお、若い男と女、身なりのいい男たちの飲酒描写については、飲酒内容を推測する要素がほとんどなく、ほとんど風景描写に近いものなので、最後のまとめからは除外する。

シドニーのグリーン・ストリート」

飲酒内容

僕:ビール 少なくともグラス2杯*15*16

  • 最低飲酒量 ビール700ml 

 

解説

 シドニーのグリーン・ストリートで私立探偵をしている「僕」が、ピザ・スタンドのチャーミングなウエイトレス「ちゃーりー」とともに、羊男が持ち込んだ難事件に挑む話。

 羊男が出てくる話に外れはないのだが、この作品もナンセンスコメディとして非常に面白い。

 『村上春樹全作品1979~1989』3巻の解説によると、この作品は、文芸誌『海』が増刊として出した子供のための小説集のために書かれたものだそうである。子供のための小説であるが、特に遠慮することもなく、ビールを飲むあたりに、飲酒への並々ならぬこだわりを感じる。

 

「納屋を焼く」

飲酒内容

 僕:ビールグラス1杯*17 少なくとも缶6本*18、白ワインボトル1/3本

  • 最低飲酒量 ビール2,450ml ワイン250ml

彼女:ビール缶3本

  • 最低飲酒量 ビール1,050ml

彼:ビールグラス1杯 少なくとも缶6本、白ワインボトル1/3本*19

  • 最低飲酒量 ビール2,450ml ワイン250ml

解説

 主人公の小説家である「僕」がガールフレンドの恋人である「彼」と一緒に葉っぱを吸ったり、納屋を焼くことについて話したりする話。飲酒運転もする。

 飲酒量がおかしい小説その2。作中から読み取れる、酒の最低限の消費量は上記の通りだが、実際にはその数倍の酒を飲んでいることが予想される。

 

「蛍」

飲酒内容

僕:ワインボトル1/3本*20*21

  • 最低飲酒量 ワイン250ml

彼女:ワインボトル2/3本

  • 最低飲酒量 ワイン500ml

 

解説

 『ノルウェイの森』のもととなったことで有名な短編。作品全体に漂うほの暗く静かな空気や、若い主人公の青くて苦い心理描写、『ノルウェイの森』との相違点や共通点など、注目すべき点は多い……が、飲酒という観点からは、あまり目立ったところのない作品である。

 

「めくらやなぎと眠る女」

飲酒内容

 僕:ビール缶1本

  • 最低飲酒量 350ml

解説

 いとこの耳の治療に付き合って病院に行った主人公が、病院の食堂で昔のことを思い出す話。

 病院が主な舞台なので、飲酒描写はないかな、などと思いながら読んでいたが、病院を出た途端、主人公が酒屋でビールを買って飲み始めたので油断できない。

 

「踊る小人」

飲酒内容

僕:メカトール酒グラス1杯、ビールジョッキ1杯*22、少なくともグラス1杯*23

  • 最低飲酒量 メカトール酒60ml ビール850ml

老人:メカトール酒少なくともグラス4杯*24

解説

 象工場(文字通り象を作る工場)で働く主人公が、ダンス好きの女の子のハートをゲットするため、踊りのうまい小人に魂を売ってサタデーナイトフィーバーする話。…あらすじにすると意味不明だけど本当にそういう話なのである。

 この短編にはメカトール酒という謎の酒が登場する。何の説明もなく しれっと何度も出てくるので、自分が知らないだけで本当にそういう酒が存在するのかと思いそうになるが、どうやらこの世に存在しない架空の酒のようだ。度数もどのように飲むかもさっぱりわからないので、とりあえずウイスキー的なものと想像して、ウイスキーと同じ度数、同じ飲み方をするものと推測しました。違っていたらごめんなさい。

 

「三つのドイツ幻想」

飲酒内容

僕:ビールジョッキ少なくとも1杯

  • 最低飲酒量 ビール500ml

彼(東ドイツの青年):ビールジョッキ少なくとも1杯

  • 最低飲酒量 ビール500ml

解説

 村上春樹がドイツから連想して書き上げた短い文が三つ並んだもの。ドイツの話なので当然ビールを飲む。村上春樹とドイツが組み合わさってビールが出てこないなんてことはあり得ないのだ。

 

 「雨の日の女#241・#242」

飲酒内容

僕:ウイスキー水割り少なくとも1杯

 

解説

 雨の日に昼間からウイスキーを飲んでいたら化粧品のセールスが来て、帰っていく話。何かが起こりそうで特に何も起こらないと、解説で村上春樹自身が言っている。何も起こらないが飲酒はする。

 

今回のまとめ

そういわけで、『村上春樹全作品 1979-1989 3 短編集Ⅰ』に収録された短編における飲酒量は以下の表の通りとなります

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今回調査した13短編中、飲酒描写があったのは12作品、消費された酒は

 という結果でした。予想していた通りですがなかなかの飲酒量です。今回調査対象とした村上春樹全作品 1979-1989 3 短編集Ⅰ』が全356Pですから、この巻では1Pあたり約4.6g、だいたい缶ビール1/4本分のアルコールが消費されていることになります。

 もちろんこれはあくまで作中から読み取れる、最小限の分量ですので、実際にはもっと大量の酒が消費されていることが推測できます。

 注目すべきはやはりビールの消費量の多さでしょうか。20リットルが消費されているわけですから、1作品当たりだいたい1.5リットル(中瓶3本)のビールが飲まれている計算になります。アルコールも、全体の約58%がビールのアルコールということになり、その突出っぷりがわかります。

 ちなみに、主人公(一人称の語り手「僕」)に限ってみると飲酒量は以下のような感じになります。

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 という結果でした。だいたい主人公だけで全体の半分の量の酒を飲んでいるようです。

 そしてアルコール量の中でビールが占める割合は約65%。主人公である「僕」が他の登場人物と比較して、ビールを好んで飲んでいることがよくわかります。

 

 とりあえず今回の調査はここまで、次回は村上春樹全作品 1979-1989 5 短編集Ⅱ』に出てくる飲酒量を調査したいと思います。

*1:「レストランで1杯、ディスコで「汗をかくと座ってビールを飲み、汗がひくとまた踊った」とあり、後に飲みすぎたとも言っているので実際にはもっと多量に飲んでいると推測できるが、確実に飲んでいるのは2杯

*2:「一時間以上ウイスキーを飲みつづけた」

*3:「彼」と二人で、葬式の前後に半ダースずつ、合計1ダースのビールを飲んでいる

*4:2杯以上飲んでいる可能性が高い

*5:「彼」と二人で1本

*6:台風の動物園にて。なお、「彼」は台風や集中豪雨のときはいつも、動物園でビールを飲むらしい

*7:2杯以上飲んでいる可能性が高い

*8:なんの水割りか不明だが、ここではウイスキーの水割りとする

*9:恋人に別れを告げられた時

*10:中年の女に勧められて

*11:中年の女に勧められて。作中「ウォッカ・トニックをもう一杯飲んだ」と書かれているので、最低2杯飲んだと受け取ることもできるが、前後の文脈からこの「もう一杯」は「口に一杯」の意と解釈した

*12:ガールフレンドのアパートにて二人で1本、ホテルにて若い女と二人で二本

*13:ホテルにて「僕」と二人で二本

*14:ガールフレンドのアパートにて、二人で1本

*15:「ちゃーりー」のピザスタンドで2回ビールを購入している。1回目の購入時は生ビールと明言されているが、2回目の購入時は単にビールとしか言っていない。容器がジョッキかグラスかカップかは不明

*16:事務所にいるとき「僕」は習慣的にビールを飲みながらレコードを聴いているらしい

*17:空港にて

*18:マリファナを吸う前の段階で明らかに彼女より多い分量のビールを飲んでいることが明示されているので最低4缶、追加で2缶を飲んでいる。実際には空き缶が「ずらりと並んだ」と書かれるくらいに飲んでいる。

*19:「僕」と同じ飲酒内容

*20:彼女と二人でワインボトル1本あけた上で、「僕が一杯飲むあいだに彼女は二杯飲んだ」と書かれている

*21:18歳の時から缶ビールを飲む習慣があることは記されているが、実際に飲む場面はない

*22:酒場にて

*23:舞踏場にて

*24:最初に飲んでいたものに加えて主人公が3回メカトール酒をおごっているため